TOP 事例紹介 社員の声を後押しに、
性的マイノリティ支援の
輪が広がる。

社員の声を後押しに、
性的マイノリティ支援の
輪が広がる。

お話しいただいた方

執行役員 グローバル経営戦略室長 富岡 孝行 様

建設業

株式会社大林組

日本を代表するスーパーゼネコンの一社として、国内・海外で活躍する大林組。女性活躍をはじめ、パワハラ防止措置や「SOGIハラ」にも適切に対応すべきとの考えで、建設業界の中でもいち早く課題解決に取り組んでいます。「事業に関わるすべての人々を大切にする」という企業理念を基盤に、いかに性的マイノリティへの理解と支援の浸透を進めているか、お聞きしました。

すべての人を大切にするという創業の精神

――  事業内容や会社の特徴を教えてください。

富岡

1892年に創業し、今年(2024年)で133年目を迎えます。現在、国内の建築・土木事業を中核に、海外建設事業・開発事業・グリーンエネルギー事業・新領域ビジネスと幅広い事業を展開しています。企業理念は「『地球に優しい』リーディングカンパニー」というものですが、建設現場に関わる者として、創業より『三箴(さんしん)―「良く、廉く、速い」』という精神を受け継いできました。優れた技術で誠実なものづくりを行うことにより、空間に新たな価値を創造すること、社会課題の解決をすること、そしてお客様や協力会社、従業員すべての人を大切にするという精神を表しています。これは人権方針にも通じる考え方です。こうした理念に基づき、大林グループは持続可能な社会の実現に貢献する企業を目指しています。

業界特有の課題、長年の慣習を改める

――  LGBTフレンドリーに取り組むきっかけは?

富岡

建設業界はもともと女性社員や女性管理職が少ないのですが、当社は時代に先立ち、1980年代から女性活躍推進に取り組み、仕事と育児の両立支援や事実婚も認め、人事諸制度の適用を進めてきました。2011年に制定した「大林グループ人権方針」には、性的指向・性自認等を理由とした差別、ハラスメントなど人権を侵害するあらゆる行為の禁止することを加えています。また、階層別の人権研修において、性的マイノリティに関するテーマを取り上げ、継続して啓発に取り組んでいます。
2020年には「SOGIハラスメント」や「アウティング」がパワハラの対象となることを「ハラスメント防止ガイドライン」に明記し、翌2021年に「ダイバーシティ&インクルージョン推進部」を新設。ジェンダー、国籍、文化、世代および障がいの有無などにとらわれることなく、多様な人材が活躍できる職場づくりを推進しています。
当社は『東京オリンピック・パラリンピック』の競技会場のひとつである『東京アクアティクスセンター』の建設を担当しましたが、「多様性と調和」という大会の理念に、一企業として取り組むことが大切だという想いを抱きました。こうした外部環境にも背中を押され、ダイバーシティや性的マイノリティ支援への対応を進めています。

――  具体的にどのような活動をしていますか?

富岡

社内環境整備について時系列で申し上げると、まず2019年6月に匿名での相談が可能な「ハラスメント相談窓口」を、2021年8月には「ダイバーシティ&インクルージョンに関する相談窓口」を設置しました。これら窓口は当社グループの役職員、派遣社員、出向受入社員、パートタイマーの方は誰でも利用できます。
それから、運用上で認められていた事実婚について、2023年7月に配偶者の定義を同性・異性を問わないものに改定し、事実婚を制度上明文化することで、同性婚パートナーが人事制度や福利厚生制度の一部を利用できるものにしました。また、同年9月にはアライ*に関するe-ラーニングも全社員に実施しました。教材を利用した独自の研修ですが、受講後に簡単なテストを実施して知識の定着を図ったり、「大林グループアライステッカー」を提供したりしています。
他にも、本社オフィス(品川)にはオールジェンダートイレ「みんなのトイレ」を設置し、2024年1月には、男女別のドレスコードを廃止しました。工事現場の作業服はもともと性差を感じる作りにはなっていませんが、オフィスではスーツなど服装に一定の基準を示し男女別に着用例を紹介していました。これを廃止しました。
こうした一連の取り組みが評価されまして、「PRIDE指標2023」で最高位のゴールドを取得させていただきました。
※アライメンバーは「LGBTQ+の支援者」

社員の声を後押しに性的マイノリティ支援を推進

――  社員の意識や社内浸透はどのような状況ですか?

富岡

当社は9千人ほど従業員がいますが、アライに関するe-ラーニングの受講者は現時点で88%となり、アライステッカーの希望者も約350人になりまして、一定数の賛同が得られたと思っています。
また、研修を受けたある支店長から「e-ラーニングの期間が短すぎる。もっとじっくりやったほうがいい」と意見をいただいて改善しています。
また、先ほど配偶者の定義を明文化したと申し上げましたが、ある社員から「法律婚のできない同性パートナーのいる社員に対しても、社内制度を使えるようにしてほしい」との声が届いたことも、社内規程の改定・周知をする後押しとなりました。
福利厚生制度・設備については利用しやすい形に変えていきたいと常に考えていて、担当するD&I推進部でも問題意識を持って取り組むとともに、社員の声を推進力に、社内への浸透を進めています。

――  どのような課題を感じていますか?

富岡

性的マイノリティに関する理解は個人差があり、知識が乏しい社員や関心が高くない社員も一定数いると思います。企業として、どのように進めていけば理解が浸透するかなどを念頭におきながら、慎重かつ丁寧に推進することが課題だと認識しています。
D&I推進の目的は、社員が働きやすく、能力を十分に発揮してもらう環境をいかに作るかだと思います。新しい価値を創出し続けるためには、年齢や性別にとらわれない、多様な人材が活躍できる職場づくりが必要です。

――  性的マイノリティ支援でどのような影響がありましたか?

富岡

当社では風通しの良い職場作りをテーマとする研修や組織活動が行われています。小さな課題解決を積み上げ、社内で横展開することで、結果的に風通しの良い組織づくりにつながっていくと思います。性的マイノリティに対応することもそのひとつです。
また、当社は総合建設業として、建築物のカーボンニュートラルと併せてウェルビーイング(心身と社会的な健康的な状態)という社会課題にも着目しています。性的マイノリティ支援は、人にとってウェルビーイングな空間とは何かを考えること、構築することに通じるものと考えます。
当社の性的マイノリティ支援の取り組みはまだ途上にあります。地道ではありますが、コツコツと積み重ねることで、組織内の人間関係がより円滑になり、風通しの良い組織風土の醸成につながると考えています。

インタビューを終えて

大林グループは「企業を支えるのは社員一人ひとりの力である」との考え方が伝統的に息づいている企業です。だからこそ人間関係を円滑にし、風通しの良い組織風土づくりを大切にしています。建設業全体に、性的マイノリティ当事者への理解と支援、活躍の場を広めるためにも、業界のリーディングカンパニーとして、今後も継続的に取り組んでいただきたいと思いました。

東京都では性的マイノリティの方々が働きやすい職場の環境づくり等の取組
を支援するため、事業者の方へ向けた支援を御用意しております

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