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一体となって
性の多様性を支える。

大学と医療が
一体となって
性の多様性を支える。

お話しいただいた方

順天堂大学大学院 医学研究科医学教育学 教授
順天堂医院「SOGI相談窓口」担当医師
武田 裕子様(写真左)

順天堂医院整形外科・スポーツ診療科 先任准教授
医療安全機能管理室 室長 髙木 辰哉様(写真右)

医療

順天堂大学医学部附属順天堂医院

1日3千人超の外来患者が訪れる順天堂医院。レインボーバッジを付けた事務職員に迎えられ、院内でもバッジをつけた医療者が目に留まります。同医院は2021年にLGBTなど特定のSOGI(sexual orientation and gender identity)を有する方々への支援に取り組み、翌年にはPRIDE指標のゴールドを取得しています。この“速やかな活動と現場への浸透”の背景には、経営陣の主導や大学との連携、当事者の協力、事務職員を含む現場の医療者の対応力がありました。ワーキンググループの委員長と副委員長のお二人にお話を聞きました。

患者さんが証明書を持参したらどう対応したらよいか?

――  医療機関としての特徴を教えてください。

髙木

当院は、江戸時代から続く『順天堂医院』が発祥の大学附属病院です。1日平均3,731人(2022年度)の外来患者様が来院される、日本で最古かつ最多クラスの病院です。

武田

順天堂大学は、「仁」を学是に、出身校・国籍・性による差別を認めない「三無主義」を掲げています。これらの実践により、分け隔てなく病める方々を癒すことを大切にしている医療機関です。

――  「LGBTフレンドリー」に取り組まれたきっかけは?

髙木

WG発足のきっかけは、私の前任の医療安全機能管理室長のもとに寄せられた、ある病院職員からの問い合わせでした。「患者さんがパートナーシップ証明書を持参したらどう対応したらよいか?」というもので、室長が学長に大学としてのスタンスを尋ねたところ、大事な問題なので院長と相談して進めるよう指示され、医院全体の活動へと発展していきました。

武田

まず、髙橋院長主導で、2021年5月に「SOGIをめぐる患者・家族・職員への配慮と対応ワーキンググループ(WG)」が設立されました。どのようなSOGIであっても安心して受診できる環境を整えるため、院内の各部門にWGのメンバーを募集したところ、自発的に30名超の職員が手を挙げました。
私はこのWGの委員長に任命されました。担当しているゼミのなかで、2015年からLGBTQをテーマにした教育を行っていることが理由です。

患者・職員でなくても利用可能な「SOGI相談窓口」

――  具体的にどのような活動をしていますか?

髙木

院内の取り組みを進めるために、少人数制の研修、『SOGIセミナー』を継続して開催しています。参加者は事前にSOGIに関する認識を問う質問に回答し、SOGIの基礎を学ぶ動画教材を視聴してから参加する反転学修の形式を採っています。毎回さまざまなセクシュアリティのゲストを複数招いて対話を通して学んでいて、学部の教職員や大学法人職員、大学の他の附属病院からも参加があります。セミナーは2024年3月現在で37回開催しており、約350名のアライが誕生しています。

武田

2021年11月には、『SOGI相談窓口』を開設しました。SOGI は病気ではありませんので、外来ではなく相談窓口としています。対象者を限定せず、患者さんやそのご家族はもちろん、職員や学生、一般の地域の方、どなたでも無料で利用できます。「窓口」ですので、内容に応じてご相談者が必要としているサポートに繋げることを目指しています。診療が必要であれば、院内の当該診療科受診を手配したり、状況に応じて外部の医療機関を案内したりします。支援が得られそうなNPO団体(当事者とその家族の交流会)をご紹介することも多いです。毎週月曜日の午後、内科医でもある私が担当しています。電話予約が必要です*。
*代表電話 (03-3813-3111)にかけて「SOGI相談窓口」と伝える

――  医療機関として、『PRIDE指標』の取得を目指した理由は何ですか?

武田

きっかけは、当院のWG外部委員からのご提案でした。その方は企業のダイバーシティ推進や性的マイノリティ支援をサポートされていて、当事者に対応する医療機関がまだ少なく、相談や受診のハードルが高いという現実をなんとか変えたいとお考えでした。そこで、適切なご助言をいただきながら、PRIDE指標の認定を目指すこととなりました。

――  どういう影響がありましたか?

武田

外部からの評価は、当院の取り組みをさらに進める力になっています。
院内の投書箱に、「レインボーマークを見つけ“Juntendo最高”と思いました!」とコメントをいただきました。患者さんのご家族がレインボーフラッグを見つけて、「拒絶されてないと感じる」「安心できる」とつぶやかれているのをSNSで見つけることもありました。
『SOGI相談窓口」がマスメディアに取り上げられたときには、SNS上に「何かあったときにここでみてもらいたいとなるよね」とのつぶやきをいただきました。
人事課担当者からは、志望理由欄に「順天堂のSOGIの取り組みを知りここで働きたいと思った」と書かれている履歴書を見ることが増えたと聞いています。他大学の附属病院や都内外の総合病院からも当院の活動について、お問い合わせや見学のご依頼をいただいています。実際に研修に参加して学んで帰られ、そこで新たな取り組みを始められたりしています。

当事者の声を聴き続け、その体験を共有するために

――  活動を通して難しさはありましたか?また、どのような課題を感じていますか?

武田

実は、特に困難を感じたことはありません。2023年度のPRIDE指標GOLD取得に向けて「人事規約の改定」が必要だったときには、さすがに難しいのではと思ったのですが、トップの理解があり、人事課の迅速な対応のもと速やかに法人理事会で承認されたと聞いた時には、本当に嬉しく誇らしく思いました。同性パートナーでも法律婚の配偶者と同じ制度を適用することになり、トランスジェンダー・ノンバイナリー職員向けの制度も拡充されました。

髙木

特に大きな課題はないと思います。ただ、職員の中にはまだ知識がないために、無理解や偏見が存在することも否定できません。意識を変えていくのは大事です。正直なところ、私も前任から引き継いだばかりで、勉強している段階です。私は武道をやっていたので「男は男らしく、女は女らしく」という教育を受けてきました。ちょっとした発言で相手を傷つけてしまうことにも気づいていないと思います。一方、何をしてはいけないというのではなく、信頼される関係性を築くことが大事なのではと考えています。気づいていないときに率直に指摘してもらえたら嬉しいです。
順天堂医院SOGIへの取り組み(SOGIポスター資料)

――  性的マイノリティ支援に向けた想いをお聞かせください。

武田

ここまで取り組みが進んだ背景には、「仁」の心を学是とし、差別を認めない「三無主義」の組織文化とリーダーシップがあります。それぞれの現場で働くさまざまな職種の方たちの切実なニーズがあって取り組みが進みました。また、管理課職員の下支えがなければ、ワーキンググループの活動も進まなかったでしょう。そして何より、その実践を後押ししているのは、多様なセクシュアリティを有する方々の声です。これまでのつらい体験を共有し、医療への期待を込めて研修に協力くださっている皆様に、この場を借りて感謝を申し上げます。

インタビューを終えて

「誰でも匿名で相談可能」といった当事者の皆様を積極的に受け入れる活動を推進する順天堂医院。そこには「仁」という理念が医療の現場までしっかり息づいていると感じます。ホームページやSNSで発信したり、マスメディアに取り上げられることで世の中に注目され、知られることで再び職員の意識が上がり、自発的行動を促進するというサイクルができあがっています。

東京都では性的マイノリティの方々が働きやすい職場の環境づくり等の取組
を支援するため、事業者の方へ向けた支援を御用意しております

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