TOP 事例紹介 創薬の基盤にD&I。
当事者の理解と共感を
可視化する。

創薬の基盤にD&I。
当事者の理解と共感を
可視化する。

お話しいただいた方

人事部課長 ダイバーシティ推進室室長
佐藤 華英子様(写真左)

人事部 ダイバーシティ推進室
別所 成美様(写真右)

製造業

中外製薬株式会社

抗体エンジニアリング技術をはじめとする独自のサイエンス力と技術力でヘルスケア産業のトップイノベーターを目指す中外製薬株式会社。「ダイバーシティ&インクルージョン」を重要な経営テーマとして捉える同社では、性的マイノリティ支援についても組織文化にしっかり定着させようと、さまざまな課題に取り組んでいます。2022年から『PRIDE指標』でゴールドを受賞するなど、社外からも高い評価を受けています。

イノベーション創出に不可欠なD&Iと人権への取り組み

――  中外製薬の事業や特徴について教えてください。

佐藤

当社は2002年にスイス・ロシュ社と戦略的アライアンスを開始し、以降は世界的製薬企業グループの一角として事業を展開しています。「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する」というミッションのもと、世界の患者さんへ革新的な医薬品を届けるために、当社ではイノベーションや創造性の追求という考えに価値を置いており、『多様な価値観や専門性から革新は生み出される』ことを共通認識として、ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)を経営の重要課題の1つに置いて取り組んでいます。

――  「LGBTフレンドリー」に取り組まれたきっかけは?

別所

当社のD&I取り組みは、2010年に社長をオーナーとしたジェンダーワーキングチームの発足からスタートし、2012年からは、女性、シニア、外国籍社員をはじめとする多様な人財の活躍推進に向け、専任組織としてダイバーシティ推進室を設置し、活動を展開しています。全ての社員は各々の個性や強みを持つことを大前提とし、多様な考え方を持つ全ての社員が能力を存分に発揮できるよう、年齢・属性にかかわらずチャレンジを後押しする⼈事制度や職場環境の構築をしています。性的マイノリティへの対応も、D&I推進として進めていますが、直接的なきっかけは、2014年の「人権研修」で取り上げたことでした。

当事者への配慮が“特別なもの”にならないように

――  具体的にどのような活動をしていますか?

別所

はじめに「中外製薬グループ コード・オブ・コンダクト」と呼ぶ行動規準を改定しました。「人権の尊重」項目に「性的指向と性自認」や「同性パートナー」といった文言を追加しました。

佐藤

行動基準の改定にあたっては、当事者団体や弁護士からも助言をいただき、当社の組合からも建設的な意見をもらいながら検討を重ねました。また、改定後も、実際に当事者から相談された場合の会社の対応をもっと可視化する必要があるとして、社内に相談窓口を設置したり、社外の相談サービスを利用して当事者の困りごとに柔軟に対応するようにしました。また、配偶者に関する制度の同性パートナーへの適用は個別に対応してきましたが、制度利用の対象を明確にし、制度を利用し易く、全社員への理解を促進するために、2022年に就業規則や各種規程に「同性パートナー」を明記することにしました。

別所

相互理解には、前提として正しい理解が必要であるため、全社員に向けてe-learningを通じた学びの機会を提供しています。環境整備の面では、男女別であった社章やユニフォームも変更しています。研究着は、ユニセックスの研究着も加えて自由に選択できるようにしました。また、新たに研究所や工場を建築する際に個別の更衣室や「誰でもトイレ」を設置しました。

佐藤

「誰でもトイレ」については、特別な人だけが使うものではないようにと、人事担当者自ら積極的に使っている方もいるようです。当事者が臆せず、安心して利用できることに貢献していると思います。

別所

他には社内ポータルサイトで性的マイノリティの専用ページを設け、全社員に向けて情報発信を行っています。「職場のLGBTQガイドブック」などの相互理解を促す学びのコンテンツのほか、「トランスジェンダーのための性別移行ガイド」も公開し、性別移行で悩んだときの相談先や、手術をする場合の補助制度を案内しています。

――  「相談を受ける側」にはどのような対応を行っていますか?

佐藤

当事者からの相談は、社内外に設置している相談窓口、D&I推進室で受ける体制を整えています。一方、今後、全社的にアライ活動が活発になってくると、各組織の人事担当者への問い合わせや相談が増えてくることを想定し、性的マイノリティ支援の理解をさらに深める必要があるとして、各部門の人事担当者向けにマニュアル作成や研修を実施しました。なお、全マネジャーに対してもe-learningを用いて研修を実施しています。

多様な価値観を認めつつ当事者への理解を深めさせる

――  活動の結果、社内にどのような変化がありましたか?

別所

本格的に活動を始めた2016年以降、ルールや環境の整備、研修を実施し、アライのステッカーを社内配布したりしてきましたが、率直なところ、どこまで社員の皆さんに伝わっているかは分かりません。とはいえ、アライ宣言をした社内のメンバーは約600名となっています。地道な啓発により、「自分ごと」と捉える人が増えてきているのではないかと考えています。

佐藤

アライ活動に参画しているメンバーは、自主的にアライであることがわかるストラップを配布したり、社内のポータルサイトに性的マイノリティ支援の専用ページを起ち上げようと計画していたりと様々なアイデアを出していただいています。一方で、社内にはさまざまな価値観があって、性的マイノリティに対する受け止めも多様です。ネガティブな印象を持った人がいたとしても、それも価値観のひとつ。ただ、正しい知識を学ぶことは必要であり、その上で、一方的に考えを押し付けるのではなく、職場の対話や性的マイノリティ当事者との対話等、相互理解に向けた取組を続けていく必要があると思っています。

別所

これまでも当社は継続的にD&Iに取り組んできていますが、性的マイノリティ支援についてはまだ不十分と感じていますので、これからも取組を継続していきます。

――  性的マイノリティ支援に取り組もうとしている企業にメッセージをお願いします。

佐藤

企業にとっては、社内の人財の活躍はもちろんですが、人財獲得の観点からも性的マイノリティ支援への取組は重要です。当事者は、当然ですが入社して働きにくさやストレスを感じない、自分の能力を最大限発揮できる会社に入りたいと望んでいます。性的マイノリティ当事者に限らず、企業のD&Iへの取組や社会課題への対応は、企業選択の重要な判断材料になります。多様な人財の活躍には、心理的安全性が担保された職場であることが不可欠であり、そうした職場にしていくことで、一人ひとりがやりがいを感じながら最大限の力を発揮していくことができます。会社の戦略実現には、多様な人財の活躍が不可欠であることを、継続して発信し、活動を続けていくことが大切だと思っています。

インタビューを終えて

全ての取組に対する結果を数字やデータで表せるものではないため、その取組が成果に結びついているのか測定することは難しいと話す佐藤室長。しかし、そうした中でも取組を進めることで、一人ひとりの働きやすさにつながり、結果として、社員一人ひとりの能力を最大限発揮できる職場づくりが進み、企業の成長や企業価値の向上といった好循環が起きています。

東京都では性的マイノリティの方々が働きやすい職場の環境づくり等の取組
を支援するため、事業者の方へ向けた支援を御用意しております

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